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すべてのはじまり

みなさまこんにちは。魚類チームのTです。

仙台市の貴重な保存林をたたえるこの川ははるか昔から変わっていません。水系によっては植林と伐採を繰り返し、人為的に遊漁のための放流をすることで人の都合で作られた自然は数多くありますが、仙台市は保存林の比率が高く自然下での生命の引継ぎが続く森が多いです。ここは自分が数十年前からホームとして通う川。目的とする原流域まではまだまだですが天気が良い日には途中で車から降りて景色を眺めたくなります。
なぜ源流まで行くのかと言うと、普通に考えれば魚なんかいるわけもないような過酷な環境にイワナが生きているということにびっくりしたことが始まりでした。ともすれば行動が魚というよりもヘビか両生類にも思えたからです。イワナが陸上を這って移動したり上流へ向けて岩の上を三段跳びで昇って行ったとかも実際に見ました。
海での水中写真撮影も晩秋からは時化で潜れず、釣りが禁漁になる10月からは渓流で撮影というパターンが自分のライフワークになりました。

無垢の源流とは

イワナが生息する源流がいつも清浄な水が流れているわけではありません。夏場は水量が減れば外気温を受けて水温が上昇して溶存酸素量は低下します。大雨が降れば激流となって必死に耐えても流されてしまう魚も多いはずです。極端な少雨であれば川が途切れて水たまりに取り残される魚もいます。そんな環境で酸素がどこから来るのかといえば、滝や水の段差の落ち込みによる大気のエアレーションのみです。下流域や海洋で植物プランクトンが行っている炭酸同化作用による酸素の生産は原流域では皆無なんです。
一般的に言われる物質循環の枠外で源流の魚達は生き続けています。森が生態系を完全に作りあげていればいるほど、水は清浄で有機物を含まずその土壌を構成する無機物が溶け込んでいるだけです。森が海を育てているというような話を聞くこともありますが、あるとすれば下流に行くにしたがって合流する農業排水や生活排水に含まれる窒素化合物が栄養素として植物プランクトンを育て物質循環のスタートとなっているようなものです。また、よく言われる山からのミネラルという言葉も聞きますが、一般に言われるミネラルというものはマグネシウムやカルシウムのことで、山の土壌には申し訳程度含まれますが、海洋においてはけた違いに存在するもので何かの勘違いではないかと思います。

S川水系I川源流域のニッコウイワナ当歳魚

水の栄養塩が無いため底砂、石ともに藻類等も皆無な環境。白っぽくフィルターがかかっているのは日本の渓流の特徴です。石灰岩の多い日本ではチョークストリームと呼ばれる石灰岩の溶け出した水が多いです。渓流は浅いため陸上から見れば透明度が高そうでも横から覗けば白濁のフィルターがかかることが多く、水平で20m以上の透明度の川もありますが、なかなかシャッターチャンスには恵まれません。この川は流程が10kmほどで途中のダムなどの構造物が無いため、イワナの降海型のアメマスの遡上を期待して通っていましたが、結局会えずじまいでした。

Y川のイワナ40cm~!

河口から約5kmほどオオサンショウウオのように這いずりながら到達したのが落差1.5mほどの小さい滝。まだまだ上流は広々した良い渓相で秋深まった頃産卵場を目指して滝つぼに5匹ほどの大型イワナが集結していました。産卵場へ行くことしか頭にないのか意外とこちらを気にする様子もありませんでした。撮影を中断して河原でしばらく眺めていると順番に滝を一気に乗り越えようとジャンプし始めました。飛びあがるポイントが同じだったのでたぶん流れの弱い良い場所があるのだろうなと思われました。イワナは妥協して下流で産卵する魚ではありません。水量の変化などを利用して必ず登り切っていると思います。ここでは途中川を歩いていて60cm以上の魚影を目撃しました。すでにこちらの気配を察知されていたので、大きな石の陰に逃げていましたが、追えばさらに逃げるでしょう。たぶん春に遡上して待機していたサクラマスです。野生下での撮影をした人は未だ居ないはずです。N県のM川水系T川のサクラマス保護区へ散々通って出会えなかった魚を目の前で見るとは思いませんでした。死ぬまでに撮るつもりです。I県にポイントは絞ってあります。
 

H川のヤマメ♂

イワナの生息域からやや下流を目指すとイワナと混泳することもあるヤマメの姿が見られてきます。メスの大半が海へくだってサクラマスとなって帰ってくる魚です。オスは川で生活して大きくなったメスの帰りを待って一緒に産卵行動をします。イワナと違ってヤマメは約3年の成長と産卵を終えるとサケのように力尽きて死んでしまいますが、中には何とか乗り越えて寿命を延長する強者もいます。写真のヤマメは秋深まった頃の増水した川べりでメスを待っている様子です。サイズはヤマメのオスとしては最大級の40cm近くあります。ヤマメの生息域でも水中での物質循環はほとんどありません。渓流魚としては最も神経質な魚で、フライフィッシングなどの毛ばりはくわえてから0.04秒で異物と判断して吐き出すと言われています。
渓流の釣り人が最も好むのはヤマメで、その美しさだけではなく釣ることの難しさと味の良さでもあると思います。囲炉裏の遠火で焼いたヤマメの旨さは最高なんですが、囲炉裏があるわけもなくガス台で消えそうな炎で3時間かけて焼くと近いものが出来あがります。

カジカ S川水系K川

ヤマメよりもさらに下流域から出現するカジカ。水はまだまだ清らかでコケすら生えていません。おそらく日本最高位に生息するカジカ科魚類です。丸ごとから揚げにすればたいへん美味しい魚です。あまり逃げない魚ですが、撮影するにあたっては水の落ち込みなど広いポイントでカメラを構えてヘタをすると2時間位じっと構えて近くに来るのを待つこともあります。この魚が出現する標高辺りから人家らしきものが点在し始めるのであまりに長時間動かずに伏せていると上の方で農家のおばさん達が周辺でガヤガヤと騒ぎ始めているのが聞こえて何事かと思えば死体と思われていたようでした。まあこの辺の標高から農業が始まり人間が営みを始めるところになるんです。栄養物が流れ出て物質循環が始まればそこに生息する生きものの顔ぶれは様変わりしてきます。サケ目主体だった魚相もコイ目が多種生息するようになり、栄養物が生産するエサとなる生物が豊富になることから単一種あたりの生息数も膨大となり、冨栄養な状態と言われます。対する上流は貧栄養と言っていますがあまり良い言葉ではないと思います。
 

アブラハヤ幼魚

カジカよりさらに下流を目指すといよいよコイ目魚類の登場です。ウグイの仲間の中でも上流に近い生息域の魚ですが、周辺には水草も点在するような環境になってきます。写真の場所は透明度が良かったですが、そろそろ冨栄養による植物プランクトンも多くなってくる環境で撮影には向かない条件が出てきます。以降は海へそそぐ河川の水ですが、海ではその水がどのような恵みをもたらしているのか、沿岸と外洋での違いを機会があれば紹介説明したいです。マグロと外洋性のサメの水中写真付きで(笑)