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餌のはなし

みなさまこんにちは。
魚類担当のTです。

水族館で使われる餌について興味のある方は多いかと思います。
いろいろな種類の動物がどのような種類の餌を食べているのかとか
どう入手するのかとか興味は尽きないかと思いますが、
長年水族館に関わって仕入れたり、
業者さんや漁師さん、他の水族館との情報交換で得た知識を
一部だけお教えします。

1.  水族館の餌とは

水族館で飼育される生きものは哺乳類から無脊椎動物まで
数百種類におよびます。
それらの生きものが健康で長生きできるような栄養価を持つ
餌が与えられることが必要となりますが、
実際の海や川で得ている餌をすべてそろえる
というわけにはいきませんので、
ある程度の種類に絞って選択をしなければなりません。
どんな生きものでも嗜好というものがあります。
ただし人間と違って「飽き」というものが少ないので、
一度選択した餌を継続することが可能なため、
仕入れるルートを固定することができます。

2.  餌となる魚介類の種類

水族館における最大の生きものは鯨類や海獣類で、
摂餌量も水族館最大になります。
ですから、それらの餌となる魚をメインとして調餌(ちょうじ)して
魚類の餌にもしますが、安定供給される代表種はサバというのが
水族館の常識となります。
サバは世界的にも重要水産資源で資源量の推移、予測が進んでいる
種類なため専門の漁業が行われている魚種です。
次に使用量が多いのはマアジです。
これらの種類をメインにして、およそ40種類くらいの餌となる
魚介類が使用されています。

上:マサバ 下:マアジ


3. 海外の水族館の餌

日本の水族館が世界一多いのは有名なことですが、
欧米がそれに次ぐものになります。
しかしながら、日常魚を扱うことがあまりない欧米社会で考えられる
合理化が最近多くなりました。
一部の水族館では、餌を加工品として製造してしまうそうです。
特にイルカなどの海棲哺乳類の餌ですが、餌となる魚介類を生のまま
粉砕して可食性のケーシング(ソーセージのチューブ)に注入、
冷凍保存して解凍後使うというものです。
チューブに水分や栄養物を追加注入することも可能なので、
非常に便利なものなのですが、切断することもできず、
サイズがあらかじめ決まってしまうので、
大型哺乳類の使用にとどまってしまいそうです。
日本国内にはチューブに粉末配合飼料を入れて使っている
水族館もあるようですが。

可食性ケーシングに粉砕した魚肉を詰めたソーセージ


4. 未来の餌

いろいろな餌を使っているのが水族館ですが、
種類だけではなく、使い勝手からサイズの統一性にもこだわるのが
飼育員です。
漁業関係者の方々が、大小さまざまな漁獲魚から選別して
大きさをそろえる苦労の事を考えると、
大小構わず粉砕して加工品を作れば、作業性の向上になるのではないか
と思います。
しかし、欧米のソーセージのようにサイズが限定されれば元の木阿弥です。ということで、個人的に試作したのが水族館用生ソーセージ。
生なので、野生動物の嗜好性を得ることもでき、
カットしても崩れないため、大型動物から小型魚類まで使えるという
優れもの。
一回粉砕した魚肉は水分量の多さから合成の糊などでは結合できないため
たんぱく質を再度結合する特殊な酵素を使って再度成型します。
アミノ酸系の酵素のため味も向上しているはず。
エキスもしたたる生のソーセージです。
焼いて食べたら美味しかったです。

非常に柔らかく水分あふれる生ソーセージ